外科起廃図譜
天保11(1840)年刊
蒲田桂洲著
本書は天保11(1840)年に、伊予国大洲(おおず)藩の医師・蒲田桂洲によって著された外科治療書です。腫瘍の切除や大怪我を負った傷口の修復など、65例の病症と治療法について、簡潔な漢文と図によって解説しています。著者の蒲田桂洲は、曼陀羅華(まんだらげ)から生成した麻酔薬「麻沸散(まふつさん)」を発明し、乳癌の手術に成功したことで有名な医師・華岡青洲の高弟で、本書のさまざまな外科手術にも師匠譲りの麻酔が活用されています。
上品な薄墨で刷られているのがあだとなり、画面ではちょっと見にくいかも知れませんが、本書は一種のしかけ絵本のように、治療後の姿を描いた図の上に元の患部の状態を描いた紙片を貼りつけてあり、紙片をめくることで治療前後の状況がわかるように工夫されています。まるで「術前」「術後」の写真を掲載する、現代の医学書のようですね。
癌・畸形・四肢の切断・骨の壊死など難しい症状に、麻酔を駆使し、大がかりな外科手術を成功させている本書を見ると、江戸時代日本の医療技術の高さに畏敬の念を抱きます。世界的に見てもごく早い、臨床麻酔による外科治療の記録です。