錦絵帖
幕末~明治成立
本書は、錦絵等を多数貼り混ぜてあるスクラップブック、『錦絵帖』です。幕末から明治初頭にかけて発行された諷刺画や開化絵、舶来品の包装紙などがとりどりに貼られています。
中に、ちょっと面白い絵があります。「廓(くるわ)の意気地(いきぢ)」と題されたこの錦絵、一見したところでは郭内でのちょっとしたもめごとを描いたように見えますが、人物の着物の柄や名前などにしかけられた見立てから、幕府軍と官軍の争いを皮肉っている諷刺画であることがわかります。
気風(きっぷ)のいい花魁(おいらん)「市葉」は一ツ橋つまり徳川慶喜の見立てで、情夫(まぶ)のアイさんつまり会津にしっかと寄り添い、菊の紋付で威張る「上方(かみがた)の客」に剣突(けんつく)を喰わせています。一方、上方の客の肩を持つ花魁「萩の戸」、遣(や)り手婆(ばば)「おつま」はそれぞれ長州と薩摩の見立てです。さらにアイさんを応援する蛤(はまぐり)の着物は桑名、もう一人はちょっとひねってあります。注連縄(しめなわ)の「しめ」に琴柱(ことじ)の「じ」で「しめじ」、つまり江戸っ子弁で「姫路」のことです。他方、上方の客のために腕まくりでがんばる橘の着物の「彦十」は彦根藩のこと。後ろで息巻く鰹(かつお)の着物は…?そう、土佐ですね。
この絵の作者は三代目広重、西軍(倒幕軍)が江戸入城した慶応四(明治元)年閏4月の作です。西軍の横暴なふるまいを江戸の人々はたいそう嫌いました。これはそんな反感を込めた諷刺画です。江戸っ子たちはこの錦絵を見て、ひそかに溜飲を下げたことでしょう。