西鶴文反古
元禄9年
井原西鶴著
一通の書簡(手紙)に短い評をつけた短編17編からなっています。原題は「万の文反古」と呼ばれています。様々な人間模様を手紙のやり取りの中にとりいれた書簡体小説の形態をとったもので、井原西鶴の死後、元禄9年、1696年に刊行されました。
井原西鶴は江戸時代に初期に大坂で活躍した俳人であり、浮世草子の作家です。
この中から2編を紹介します。
始めに紹介するのは、世帯の大事は正月仕舞(せたいのだいじはしょうがつしまい) と題されたものです。主人公は29年にもわたり商売を営んできた大和屋藤四郎。これまで十分に儲けてきた一方で利息の支払いなどでかなり苦しい台所事情のようです。なおかつ、この年の瀬には掛売りの代金が回収できないので帰宅することができない。そこで、留守を預かる息子、藤五郎に対して、同行していた手代を帰阪させて年の瀬の仕度についてあれこれと手紙で指示をするという内容になっています。
もう一編は 来る十九日の栄耀献立(きたる19日のえようこんだて) と題されたものです。これは接待する側があらかじめ示した当日の献立について、接待される側からあれこれと注文をつけているものです。当時の接待に用いた献立から料理のあれこれがしのばれ、また最後に加えられている短評には接待1回当たり何百万もの費用がかかり、接待することへの苦労をやや皮肉るような印象があります。
それぞれに内容を表した挿絵が一丁ずつ添えられています。