竹本筑後掾番付集
この「番付」とは、江戸時代のお芝居の上演パンフレットのようなもので、大坂の人形浄瑠璃の劇場、竹本座で上演された浄瑠璃の番付を、当時のファンが丁寧に貼り集めたスクラップブックです。番付は、多くが二枚一組で、木版刷りに簡単な彩色が施され、語り手の義太夫と三味線の演者、人形のあやつり手の名前の一覧に、演目の名場面の挿絵が添えられています。
なかでも、注目されるのが『仮名手本忠臣蔵』の初演の番付です。元禄15年12月に起こった、いわゆる「赤穂浪士討ち入り事件」は、それから47年目の寛延元年(1784)に、竹本座で人形浄瑠璃として上演され、大当たりとなりました。事件の時代を室町時代、舞台を鎌倉に移し、大胆な脚色を加えたストーリーは評判を呼び、翌年には歌舞伎版も上演され、「忠義の赤穂浪士が、極悪非道の吉良上野介をあだ討ちする」というイメージを大衆に定着させました。
こうした番付のような手軽な刷り物は、用が済めば捨てられてしまうことが多いため、現代まで残ることは非常に稀です。このスクラップブックを作り、書き込みをした人はどんな人物かは分かりませんが、彼の浄瑠璃への情熱によって、現代の私たちも当時の忠臣蔵ブームの一端を知ることができるのです。