幡豆郡知名鑑
大正14年版
尾三新聞社
尾三(びさん)新聞社は、小野目盛壽(おのめせいじゅ)を社長とし、西尾の天王町に事務所を置く、当時のこの地方の中心的な新聞でした。「知名鑑」とは、いわゆる紳士録のことで、当時、幡豆郡で名の知られた人物、203人の経歴と写真を紹介しています。小学校の校長や町長、村長、議員、事業家、医者、地主、僧侶、軍人など、幅広い分野から選ばれ、地元の出版ならではの、詳しい人物描写、当時の世相を反映した記者のコメントは大変興味深いものです。
岩瀬文庫の創設者、岩瀬弥助。西尾鉄道や岩瀬文庫などの大事業について手放しで讃える一方、人柄については、「この人に対しては、性格などを書く必要もなく、俗人の追従(ついしょう)をゆるさぬ所が、たしかにすごいのである」と含みのある書き方をしています。また、当時、弥助は60歳近いはずですが、この写真は若い頃のものです。
肖像写真は洋装と和装が入り混じり、当時の風俗をうかがうことが出来ます。一色の女医、高須いまは、自転車とともにモダンに洋装で写っています。また、銀行や商店の写真入の広告もあります。大正時代のこの地方の人々の生き方や生の声、町の雰囲気を物語る、貴重な資料です。