酔花図誌
明治26年
明治26年7月に開かれた、故鳥山利平(とりやまりへい)の追悼展覧会に際して出版されたものです。鳥山利平は、愛知県西尾市中町の裕福な味噌溜り商、鳥山利平商店の4代目主人でしたが、本業よりも、自由民権運動や地域の学校設立運動に取り組んだり、書画や盆栽、茶道などの風雅の道に打ち込むなど、文人肌の人でした。本書のタイトルの「酔花」とは、「花に酔う」と書き、利平の雅号、「酔花庵」にちなむものです。
利平の追悼展覧会は、中町の善福寺を会場として、利平が生前、愛蔵した書画骨董や盆栽、そして、同好の仲間たちが持ち寄った品々が披露され、煎茶の会が催されました。その出品目録と、展示会の様子を記録したのが本書です。
さし絵は横町に住んでいた画家、辻多輔によります。巻末には会の主催者として、彦坂和吉、矢島貞廉、鈴木八治郎、原田三七など、総勢36名の名が並んでいます。その中心となっているのは、西尾の商人仲間たちです。明治大正期の西尾の商人らは、豊かな経済力を背景に、協力して町づくりに取り組みながら、書画骨董や和歌、俳句などの趣味のグループを作り、親睦を深めていました。この時代の西尾の町の“旦那文化”の盛り上がりが感じられる興味深い資料です。