梅津長者物語
文政2年写
住吉如慶
貧しいけれど心優しい夫婦が、七福神の祝福を受けて幸福になるという、とてもおめでたい物語です。昔、山城の国の梅津の里に、左近の丞という貧しい夫婦がおりました。ある日、左近の丞は、尼さんを親切に道案内し、そのお礼として十銭をもらいます。「これで餅を買って夫婦で食べ、せめて日ごろの貧乏を忘れよう」妻が餅を買いに行くと、飢えた老人に出会い、妻は自分の分の餅を老人に与えてしまいました。
その晩、夫婦の夢は不思議な夢を見、目覚めると、枕元に一体の恵比寿像がありました。その像をお祀りすると、二人は思いがけぬ子宝に恵まれました。さらには、とつぜん家のあちこちから貧乏神たちが這い出し、騒ぎ出します。あたりの村からも集結する貧乏神。そこへ恵比寿神と弁財天、毘沙門天が駆けつけ、貧乏神を追い払ってしまいました…。
この絵巻は、幕府御用絵師・住吉如慶が描いた作品を、文政2年(1819)に写したものです。薄い紙に淡い彩色で描かれ、また色を塗らず、顔料の名前だけを記したところもあります。おそらくは、絵師がこうした作品を制作するお手本として写したもの、「粉本」だと思われます。